芸術提携を結んでいる東京・江東区のティアラこうとうを拠点に、クラシックからコンテンポラリーまで幅広いレパートリーによる舞台を魅せてくれる東京シティ・バレエ団。1968年に創設され2018年に50周年を迎えたことを記念して、藤田嗣治美術による『白鳥の湖』に始まる記念シリーズを展開してきた。そして迎える51年目のシーズン初の主催公演が『トリプル・ビル』と題されたステージ。クラシックバレエの代表作である「『眠れる森の美女』よりオーロラ姫の結婚」と『Synapse』、『Without Words』という2本のコンテンポラリー作品を集めたプログラムだ。
――― それぞれの作品に挑むのは将来を嘱望された4人のダンサーだ。バレエ団の屋台骨を支える世代の岡博美と清水愛恵。そして入団数年で初々しさも残る植田穂乃香と斎藤ジュン。彼女たちそれぞれに作品への抱負を聞いてみることにしよう。まずは「『眠れる森の美女』よりオーロラ姫の結婚」でオーロラ姫を踊る清水と斎藤に聞いた。
清水「『眠れる森の美女』は東京シティ・バレエ団(以下、シティ・バレエ)にとって新たなレパートリーへ向けての挑戦なんです。今回はラリッサ(・レジュニナ:マリインスキー・バレエ、オランダ国立バレエで活躍したプリンシパル・ダンサー)さんに指導に来ていただいてますから、よりいっそう力が入ります」
斎藤「『眠れる…』のグラン・パ・ド・ドゥを踊るのは今回が初めてです。この作品は幸せな気持ちになれる作品だと思うので、そういったことが伝われば良いなと思いますし、ダブルキャストの清水さんは尊敬している先輩なので、お手本にして頑張りたいです」
――― 続いて『Synapse』を踊る岡に聞いた。
岡「これはコンテンポラリーの作品で、何度も再演を重ねている作品ですが、シティ・バレエでは初演となります。私は日本バレエ協会の公演で2年前に一度踊ったことがありますが、その時とは雰囲気が変わると思います。シティ・バレエの中弥さん振付による、シティ・バレエのための新たなヴァージョンということですね」
――― そして『Without Words』。こちらはシティ・バレエの芸術監督補佐をつとめる小林洋壱の振付による作品。シティ・バレエのレパートリーとして再演を重ねてきたというこの作品に挑むのは植田だ。
植田「これまで尊敬する憧れの先輩方が踊ってきた作品なので、それを大切に私も頑張りたいと思います。今まで小林さんの作品に出たことはあるのですが、コンテンポラリーの主演は初めてなので、自分なりに追求することを楽しみたいです」
――― ところで団員のプロフィールを見ると、岡と清水が2009年。斎藤と植田は2016年の入団だ。先にも書いたようにキャリアを積んできたふたりと、バレエ団の中ではニュー・カマーとなるふたりを組み合わせたのには何か理由はあるのだろうか。
清水「どうなんでしょう(笑)。でもフレッシュなペアがいることはこれからにつながっていくことなので、ダブルキャストでやれるのは凄く刺激になりますし、楽しいことでもありますね。お互いに発見することもありますから」
――― それではそんな3作品を踊る彼女たちが、劇場にいらっしゃるお客さんに送るメッセージを尋ねてみた。
岡「昨年3月に創立50周年記念公演『白鳥の湖』を上演した時、シティ・バレエを初めて見た人も結構いたと思うんです。その後続けてご覧いただいているお客様も、そしてまだ見たことがないという方にも、クラシックからコンテンポラリーまで幅広いレパートリーを持つシティ・バレエの特色をじっくり味わって頂きたいですね」
斎藤「本当に魅力的な作品が集まった舞台ですから、ぜひ沢山の方にお越しいただきたいですね。私達も、より素敵な舞台をお届けしたいです」
植田「シティ・バレエはセリフ付きの作品や落語とバレエのコラボレーションなど、色々なことに挑戦してきたバレエ団です。私自身、これからもそういった作品を踊ることができるのはとても楽しみです。そして今回も充実したシティ・バレエのカラーを楽しんでいただきたいです」
清水「もう、楽しみに来てください、の一言ですが(笑)。私も今回の作品を知ったときにすごく色々なところから持ってきたという印象でした。コンテンポラリーかと思えばクラシックが来るという、そこはまさにシティ・バレエのカラーだと思います。特に最後のクラシックは盛り上げたいですね。皆で一生懸命に創り上げますので、それを楽しんで欲しいです」
――― それぞれ表現は異なるが素晴らしい舞台を届けようという高い意欲は変わらない。そしてそこには生の舞台に触れて欲しいという気持ちも込められている。
清水「やはり生の舞台は違うと思います。踊る側もゲネプロで客席が空いている状態で踊るのと、お客さまが入った状態で踊るのとではまったく違います。そんな空気感をお客さまにも感じて欲しいです」
――― さて、ここまで凜々しく答えてくれた彼女たちのスタジオから出た普段着の姿、そう休日はどんな過ごし方をしているのだろう。下世話なのを承知で尋ねてみた。
植田「オフの日ですか? バレエのためではなく、映画とか本とかいろいろ見聞きするのが好きなんです。何かにひとりで集中するのが好きですね」
斎藤「私も映画を見に行ったり、ミュージカルや他の舞台を見に行ったりします。そこから表現について学ぶこともありますから。あとは同期の植田さんと一緒に出かけたりご飯したり(笑)」
清水「私は出かける派ですね。ショッピングとか買い物とか、ちょこちょこ出歩いてます」
岡「私はこの中では一番何もしてないですね(笑)。ぼーっとテレビの前に座っていることがよくありますもの。あとは自宅の近くに美味しい珈琲屋さんがあって、そこでゆっくりするのが好きですね。コーヒーは毎日欠かさないんですが、私は牛乳のはいったのが好きなので、カフェラテとかを楽しんでます」
――― それぞれの答えは同世代の女性とあまり変わりは無い。しかしステージに上がれば彼女たちはきっと素敵なひとときを魅せてくれるだろう。本物の舞台が持っている空気を体感しに、是非劇場に足を運んでみたい。
(取材・文&撮影:渡部晋也)