役者・佐藤修幸がプロデュースする演劇ユニットENG第9回公演。混沌の幕末を懸命に生き抜く少年が、運命の出会いを通して成長していく姿を描く幕末ロードムービーは、2016年の第4回公演で上演され、多大な反響を生んだ。佐藤の「もっと沢山の人達に観てほしい」という思いから実現した初の再演には、前回でも演出を手掛けた福地慎太郎を迎え、星璃(劇団Patch)、井上賢嗣ら、主要キャストに、初参加の田中宏輝ら新たなダブルキャストも加わった。迫力の殺陣アクション、ダンス等のエンターテイメント要素に加え、人間の本質に深く刺さるドラマが絶妙に織り込まれた必見の一作だ。
予想を上回る化学反応に期待している
――― ―初の再演にこの作品を選んだ理由とは?
佐藤「元々は脚本の宮城陽亮が立ち上げた演劇ユニット『DMF』で上演した作品で、当時は僕も福地も演者として出ていました。その後、ENGでも2016年に福地が演出をする形で上演したのですが、他の作品は一度上演すると、満足感が出るのに対し、この『Second you Sleep』(以下、セカスリ)ではもう一度やりたいという思いが強かったんですね。前回の公演が素晴らしかったので、基本の配役は全て引き継ぐ形ですが、過去最多となる20ステージをきちんと全うするために、前回以上のダブルキャスト体制を組みました。皆、折り紙つきの役者さんなので、僕らの予想を上回る化学反応が生まれてくれることを楽しみにしています」
再演だが、ほぼゼロベースからのスタート
――― 前回に引き続き、演出を手掛ける福地。再演に新たな視点を入れる事を忘れない。
福地「3年前にENGで上演した際には宮城さんの脚本にかなり手を入れさせてもらいました。今回もほぼゼロベースから考えています。僕は役者さんに合わせる演出が多いので、役者さんが変われば作品も変わると思っていますが、自分の上澄みも増やさないといけないなと思っていて、客席への届け方などでクオリティアップをしたいですね。僕もENGさんで演出をやらして頂いてから、仕事の幅も広がって、経験値が増えているので、その分も作品に乗せられたらなと。今回は新しいキャストも増えていますが、役者さんが違うと目指すゴールも違ってくるので、色んな人達と出来るのは楽しみです」
どんどん自分色を出していきたい
――― 主役である少年カイマ役と、カイマを導く医師の松本良順役に、星璃と井上賢嗣。そこに別組のカイマを演じる初参加、田中宏輝が新たな風を吹き込む。
井上「すごく思い入れのある作品なので、再演が決まって本当に嬉しかったです。こんなにも笑って泣いてもらえるんだというお客さんの反応がとても印象に残っていて、演じる側としては、非常に美味しいなと思いました。福地さんが役者に沿った演出をしてくださるので、本当にいい本だなと思います。僕としては前回と同じ演じ方をしないつもりではいますが、あまり肩肘を張らずに目の前の方々と真摯に芝居をしたいですね。
余談ですが、舞台では一番背が高くて、強そうなのに一切戦わないという(笑)。何せ、今回は過去最多の20ステージですからね。さらに体を1周り大きくして体力をつけて、最強の医者を目指したいと思います!」
星璃「いやだなー俺、松本先生から投げられるシーンがあるので、勘弁してくださいよ(一同笑)。でも本当に楽しみで仕方がありません。ENGさんに初めて参加させてもらった作品で、初の主演もさせてもらったので、すごく思い入れのある作品です。もし再演があるならば、また同じカイマ役をやりたいと言っていたくらいです。
社会から疎外されて育ち、人に怯えているカイマは、幕府のお抱え医師である松本良順さんと出会い、心を開いて人との関わりを持つようになります。そこで少しずつ抑圧してきた感情から自我が芽生えて、失敗も重ねながら成長していくのですが、今回は再演なので、どうしようかと。3年が経って当時の考えや感じ方も違っているかもしれない。純粋な少年なので、下手に技術に走ることもしたくないので、もう一度真っ白な気持ちでゼロから本を読み直そうと思います」
田中「お話が来たときには正直びっくりしました。ほとんど役が決まっていると聞いていたので、まさか主役を頂けるとは思っていませんでした。座組でも初めましての方が多いので、真摯に精一杯、舞台の上で生きられたらと思っています。同じカイマ役の星璃さんは僕と同い年です。前回も経験されているので、すごく心強い反面、僕も頑張らないといけないなと発破をかけられているなと思います。でもお互い持っているものが違うので、彼を真似しても意味がない。なので、どんどん自分色を出していこうと思います」
クライマックスの情景は全員で共有したい
――― エンターテイメント性に富みながらも、観劇後の“読後感”を大切にするENG。登場する人物達の心の動きにも是非注目して欲しい
佐藤「本作では少年カイマが松本良順と出会い成長をしていく姿を描いていますが、キャッチコピーから想起させるような、皆で旅をする冒険ものではありません。その時代を生きている人達がいて、自分たちの領域を守りながらも、目的に向かいすり合わせていく。世代や身分、生き方など、バラバラな人達が同じところを目指していくという意味での“ロードムービー”だと思っています。前回と同じく、新撰組の斉藤一など、幕末でもインパクトの強い名前が出てきますが、今回は出演者全員がカイマに影響を与えていきます。どの役にも必ず存在に意味があり、1人1人が物事を考えているからこそ、物語が動いていくわけです」
福地「確かに子供の視点から見た精神世界は、宮城さんが言うロードムービー感はあると思いますね。子供の目に何が映るかは重要な話で、場所や景色は変わっていく上で、子供の感じ方も変わっていく様子はロードムービーの縦軸としては成立するのではないかと。DMFさん、ENGさんには、しっかりドラマ性を持たせながら、多くの登場人物にポピュラリティを持って欲しいという方向性が貫かれていると思います。
宮城さんの本は主人公の心の動きを綺麗に表しているので、その動きをどれだけ客席と共有できるかが大事になってきます。特に終盤ではお客さんもかなりの情報を共有しているので、クライマックスの情景は役者、客席を含めて、全員で共有したいですし、できれば劇中にそういう感覚を何度も作りたいと思っています」
佐藤「絶対に面白い作品にしたいし、しなければならないと思っています。その為には、プロデューサーとして、素晴らしい作品を生み出せるような環境づくりも求められます。必ず出演して良かった。また観に来て良かった作品にします。お客様からは「あのシーンを観たことで何かが変わった」という声も沢山頂きます。「セカスリ」は僕らの作品群の中でもずば抜けて心に刺さる作品であり、何年経っても心に残っていく作品なんですね。
良い方に作用するお薬のような作品ですので、是非、劇場で多くの方に観て頂ければ嬉しいです」
(取材・文&撮影:小笠原大介)