平安末期の武将、源義経の一生を描いた軍記物語『義経紀』を紐解き、独自の解釈で全く新しいストーリーを紡ぐ舞台『YOSHITSUNE』の新章。兄、源頼朝から平家討伐の命を受け、敵地に忍び込んだ源義経が出会ったのは、母と仇敵である平清盛の間に生まれ、半分血の繋がった姫君「廊姫(ろうひめ)」だった。弱き者を守り、戦のない世を目指す義経は憎しみを超えて、敵を愛せるのか!?本作で若き義経を演じる上仁樹に舞台への意気込みを語ってもらった。
史実に基づき描かれた一作
――― 本作への出演が決まって、どんな思いでしたか?
「義経の一生については色んな所で上演されていますが、それを細かくきちんとした史実に基づいて描いているのがこの舞台の見所です。平家を滅亡へと追い込む戦いの中で一番義経が活躍し、輝いた時代なのではないかと思うので、自分が演じられることはとても嬉しいことです。過去にも義経を演じたこともあって、公演終了後には義経、弁慶の終焉の地と言われる平泉までお墓参りにも行きました。
あれだけの伝説を残している義経なのに、平泉では弁慶のお墓が大きく驚きました。弁慶の立ち往生に代表される、主君を守り抜く忠誠心が祭る側の人達の心情に影響したのかもしれないですし、義経の最期についても様々な説が残されていますから、ミステリアスでもありました」
義経の感情の揺らぎに注目して欲しい
――― 義経の魅力について教えてください。
「文献からも義経は非常に優しい人間だったということが分かります。戦国の武将はどこか冷徹で、武勲や目標のためには手段を選ばないという人間が多いのですが、義経は何かを守るために戦っていたのではないかと思っていて、情に深い所などは凄く惹かれますね。その真っ直ぐな心は付き人の弁慶や、那須与一といった優秀な家臣から厚い信頼を集めていました。幼名の牛若丸時代のエピソードや、判官贔屓(ほうがんびいき)という言葉など、数々の伝説を残していますし、日本人であれば、義経を知らないという人がいないほどの存在ですよね
本作で義経は兄の頼朝の命を受けて、平家討伐に向かうわけですが、敵陣で、血を分けた姫君の廊姫(ろうひめ)と出会ったことで、倒すべき相手にも守るべき存在がいるというのが、本作の大きなテーマで、僕が義経を演じる上で一番大切にしている部分です。特に使命か、情愛かの間で揺れ動く義経の感情の揺らぎを大切にしながら演じていきたいと思っています」
滅び行く平家側の視点でも描かれる人間ドラマ
――― 本作の見所はどんなところですか?
「やはり殺陣のシーンや、登場人物が多いので、様々な人間ドラマが観られるところでしょうか。義経の決断1つが及ぼす影響など、周りを含めた人間関係の動きなど見所は多いと思います。僕が歴史物を演じるのは2回目で、初演はライトなストーリーのものでしたが、今回ほどしっかり義経に関わることがなかったのでワクワクしています。それまで歴史についてはあまり知識がなかったのですが、義経を演じることになって、図書館で調べたりするうちにどんどん引き込まれていきました。
でも僕は敵方の平家も素敵だなと思っていて、特に武も智にも長けた平知盛については、壇ノ浦の戦いで追い詰められたときに、碇を担いで海に沈んだという言い伝えが残っているなど、滅び行く側にある美学というか、武人の潔さみたいなところが非常に惹かれます。
そういう平家側の人間を源氏サイドから一方的に描くのではなく、平家の視点に立った考えや人間ドラマも描かれる予定なので、きっと歴史ファンだけでなく、初めて歴史物を見る人にとっても楽しめる作品になると思います」
表現者であると同時に伝達者でいたい
――― 最後に、読者へのメッセージをお願いします。
「ただ歴史上の人物を演じるだけではお客さんが置いてきぼりになってしまうので、史実をしっかりと噛み砕いた上で、感情移入がしやすいように演じたいですね。役者は表現者であると同時に、物語の伝達者だと思っているので、お芝居としての魅力もさることながら、演じる物語の核をしっかりと観ているお客さんに伝えられる役者になっていきたいです。
僕としてはこの作品を通して、現代では希薄になってきている家族愛や仲間との絆といった大切な感情を伝えられたらと思っていますので、是非多くの方に会場で受け取ってもらえたらと思っています」
(取材・文&撮影:小笠原大介)