日本で育った人なら誰もが見たことのある戦隊ものやヒーローもの。その設定を活かしながら、“家族”という要素を掛け合わせ、まさかの異色戦隊ものシリーズとして話題をさらった舞台『世襲戦隊カゾクマン』が、7月、最終回となる3作目を上演する。作・演出は、外部作品も数多く手がける、劇団ONEOR8の田村孝裕。そのもとで奮闘する“家族”の一員、山口良一、小浦一優(芋洗坂係長)、曽世海司に、作品について尋ねた。
ヒーローだけど“家族”だから、お茶の間でいろんな問題が起きる
――― 過去2作を観ていない方もいらっしゃるので、まず、このシリーズのご紹介をお願いします。
山口「世襲戦隊という名前の通り、世襲制で地球を守っている家族なんです。公務員というか、国にお金をいただいて、悪いミドラー一味と戦っているという。僕はお父さんで、平和主義者で腰痛持ちのレッド、曽世君は兄でブルー、芋さんが婿でグリーン。ただ、敵と戦っても決定的打撃はいつも与えられないんですよね。ミドラー一味を壊滅させてしまうと、私たちは職を失うということに2作目で気づきまして。なんで、共存共栄みたいなことも考えながらやっているところなんです」
曽世「ブルーは、こんな稼業やってられるか!ヒーローになるなんて冗談じゃない!って言ってたんですよ。ヒーローなんで、昔は地上波、今は視聴率が落ちてネットテレビになったけど、プライベートも国民にもさらされているのが、とても嫌だったんですよね。だから最初は本当にやる気なかったんですけれども、1作目で父親が頑張ってる姿を見て、ちょっと頑張ろうかなと思い始めたくらいですね」
山口「舞台上で一番格好いいアクションやってるのはブルーだよね?」
曽世「でも、そんなに強くはないんですよ、形だけで。イヤイヤだったから、基礎訓練ができてないんです(笑)」
山口「その点、グリーンはダンスシーンを交えて戦って。結構強いよね?」
小浦「結構トドメを刺したり、最終的に怪人を倒したりしましたね。グリーンはヒーローに憧れて、ここの家の娘と結婚したので、頑張ってるんですよ。ただ少し慣れてしまったことで、自分の中で怠惰も生まれて、太ってしまったっていう」
曽世「戦隊モノで太ってるのは黄色だろ!っていう、国民の価値観からずれてる。それで一回ダイエット作戦をしたんですけど、ダイエットしたら弱くなっちゃったし」
山口「それぞれの夫婦関係もね、徐々にギクシャクしたり」
小浦「グリーンは、妻が浮気してるんじゃないか?と疑うところがありまして」
曽世「うちは子供が生まれて夫婦愛も強かったんですけど、怪人がうちの嫁にちょっかい出すようになって」
山口「キャラメルボックスの岡田(達也)君演じる、怪人・男前男がね」
曽世「かたやキャラメルボックスの看板俳優ですよ!僕なんか叶わない感があるんですよ。2ではさらに男前の敵が現れたし」
山口「まあ、悪い奴の方が美しく描きやすいんじゃないですか、こっちは家族の話だからね」
曽世「問題のない家族なんてないですからね。御多分に漏れず、うちもいろんな問題が出てくると」
小浦「ただ、グリーンがピンチになった時に、息子のことを考えてパワーが出るとかね、そういう家族愛は描かれています」
山口「たまに家族の絆を思い出した時に、戦闘力がクッと上がる時があるんですよね」
曽世「普段の暮らしで、常に家族愛を感じ続けるってことはないじゃないですか。そういうのってたまにしか思い出さないでしょ。そこがリアルなんですよね」
楽しい作品は楽しい現場から生まれるんです
――― この3作目も、ますますパワーアップしそうです。
曽世「プロットを読んだだけで吹いてしまったくらい、今までにも増して面白いんですよ」
山口「こんなに色々な出来事が起こって、2時間で収まるのかな?っていうくらい盛り沢山だったよね」
小浦「私も新幹線で、オホホって声出して笑っちゃって焦りました」
山口「こんなに描きたいこといっぱいあるなら、とてもVじゃ終わらないんじゃないかな?グリーンとイエローの話はやっぱり、スピンオフにとっておいたほうがいいんじゃないかな。ミドラー一味の話もあるしねえ」
――― えーっと、今回が最終回なんですよね?
山口「一応そうみたいですけどね、続け方っていくらでもありますから(笑)。スターウォーズみたいに時代を遡るとか、グリーンに焦点を当ててみるスピンオフとかね、あと2−3本はできそうですよね」
小浦「まあ、そうですね」
山口「だから、みんなで田村さんにやりたいオーラを出していこう」
小浦「結果、10年後20年後にこれが田村さんのライフワークになってるかもしれないですもんね」
――― 田村さんは、人間関係の繊細なところを描くのもとても上手な方ですが、ここまでコメディっていうのは、新鮮な感じがしますね。
山口「この舞台では、普段ONEOR8でできないことを僕らにやらせてるんだと思うんですよね」
曽世「だから田村さんも楽しいと思う。戦隊ものなのでバトルシーンは1つの見どころなんですけど、戦いの前と後で、家族の気持ちだったり状況だったりが変化するんで。そこがさすが田村さんというか、非常に素晴らしいところだと思います」
小浦「絶対ふざけてるでしょ!って思わせておいて涙が出るようなのが、毎回ありますもんね」
――― 田村さんも皆さんも、やってて楽しい作品なんでしょうね。
山口「楽しいですね!」
曽世「申し訳ないくらい、本当に毎日が楽しいんですよ。戦隊モノって若いイケメンしかできないと思ってたけど、まさかこんな、年齢を重ねた先輩たちと一緒にできるなんて」
小浦「子供の頃は、やっぱ憧れてましたもんね。そんな役なんて回ってくるはずもなくここまできましたけど、ここにきて」
山口「年は取ってみるもんですね」
曽世「稽古も楽しいですし。山口さんと(熊谷)真実さんがいたらね、もうダメです。笑うなって方が無理なんですよ。稽古は吹かないように慣れるためにやってるみたいなとこがあります」
小浦「危険なシーンは何回もありますね。普通に劇団でやってたら、お前達ふざけてるのかって怒られるような。」
山口「ま、いちばん笑ってるのは演出家なんですけどね」
――― 続けて出演されている方がほとんどだから、チームワークも万全?
山口「素晴らしいですね。業務連絡用のグループラインが、1作終わってもずっと生きてて、近況報告とか頻繁にしてますから。今こんな舞台に出てますとか、誰かの誕生日とか」
曽世「家族っていう括りが良かったんですかね?僕はもう、普段山口さんと会っても父さんって呼んじゃってます」
小浦「嫌な人、和を乱す人がいないですよね。みんな和しか考えてない(笑)」
山口「嫌な空気の現場から楽しいものは生まれないもんね」
曽世「2作目で新しく加わった(塚原)大助君も、最初は構えてたみたいだけど、割と早めに打ち解けて、最後は『ここまで優しさに溢れた現場は初めてだった、演劇ってこんなに楽しんでいいんだって思った』って言ってくれました」
演劇ならではの楽しさが詰まった、笑って泣ける舞台
――― 観る人も演る人も、幸せな気持ちになれる舞台ですね。楽しみです。
曽世「過去2作を観た方は、かなり早い段階から3作目を楽しみにしてくれてたみたいです」
小浦「1、2とやって解決してこなかった問題がいろいろあるので、最終回でどう解決するのか、今まで見てくださった方は楽しめると思います。初めての人も、今回見れば1と2がどういう感じだったのか大体分かりますし、絶対楽しめます。観て、もし気に入ってくださったら、帰りにぜひ過去作のDVDをご購入ください(笑)」
曽世「ぶっ飛んだ話かと思われるんですけど、世の中に普通に暮らしてる人たちの話がベースなので、共感していただけるはず。それでいて巨大ロボが出てきたり、いつの間にか非日常まで連れて行きますから。日常から非日常へのぶっ飛び感は、演劇ならではの楽しさだと思います」
山口「平成に始まった昭和風ホームドラマを、令和でどんな風に完結させるのか、ご期待ください!」
(取材・文:土屋美緒 撮影:岩田えり)