踊りとは祈りであるという信念のもと、新しい芸術の創作活動を続けるバレエ・アーティスト緑間玲貴。彼がライフワークとして取り組む、バレエの舞踊技法を軸に舞踊ジャンルの垣根を超えて創り上げる総合芸術『トコイリヤ』第5回公演が東京では初となる2日間連続公演として開催される。
若い舞踊家たちに、表現の場を
「5回目の公演となりますが、元々この公演は若い舞踊家たちの表現活動の場を広げたいという願いから出発しました。絵画や陶芸を志す方々には『個展』という表現形態がありますが、舞台芸術はたくさんのセクションで創りあげる総合芸術なので、発表の場を創る為には経済的な面も含めて大変大きな力が必要になります。その中で先人の方々がつないできて下さったバトンを、次の世代につなげなければと」
「祈り」とは生きて表現する基本。お客様の心に届く公演を目指した活動を
「若い舞踊家は、どうしてもテクニックを見せることに執着してしまい、ともすれば踊りとはなんなのかを置き忘れてしまうことがあります。私は『踊りとは祈りである』と言ってきましたが、この祈りは宗教的な意味合いではなく、自分の発案を宣(の)せて伝えるという舞踊に限らず、表現することの、人が生きることの基本なんです。ですから、踊ることは決してパフォーマンスに振り切れるのではなく、お客様と舞台との二つが共に在り、互いの感性に触れるものであるべきで。それを体感できる場を創りたいですし、作品も同様でお客様の心に届き、喜んで頂けるものこそが再演を重ねて次代に残っていく作品になっていくと思うので、それを目指した活動を続けています。
やはりチケットを買って、客席に座ろうと思って下さる方がいなければ公演は成立しません。舞踊家の価値を創造する為にも、それは決して避けては通れないもので、緞帳が開いた時に、客席にどれくらいのお客様が座っていてくださるかは非常に重要な問題でした。ありがたいことに第1回目から、2回目と、回を重ね毎にその数が増えていってくださり、私が拠点としている沖縄での公演でも、東京での公演でもお客様の数にあまり差がなくなってきていますね」
バレエの型を昇華させ、ジャンルの垣根を超えて創り上げる舞踊世界の表現
「私はバレエの型を非常に信じていて、型を取り払ったバレエの世界もありますが、型を昇華させていくことこそが最もレベルが高いと感じるので、女性舞踊家がポワントで踊ることは大切にしています。一方で私共の作品はある意味で純日本的な、日本舞踊として形づくられる前の古代の踊りのエッセンスを持っていますから、私の中では全てつながっているのですが、多面的にもご覧頂けると思います。
また今回は東京では初めての二日連続の公演となりますが、これまでの経験では二日間とも観に来てくださるお客様が多くいてくださって。その方達に、何か違う表現をお見せできないかと思った時に、今回の日本橋公会堂は非常に日本舞踊の公演が多い会場なので、花道の設備がありました。この花道は、存在する世界とどこに在るのかがわからない世界とをつなぐものなんです。私たちの文化では、現世と常世という風に表現しています。
私達の生きている世界は、目で見て、耳で聞いて、手で触れられる世界です。でも作品のインスピレーションや、新しい振付というのは、どこに在るのかわからない世界からやってくるものです。説明がつかない。端的に言って舞台はそのどこに在るのかわからない側の世界ですし、客席は現実の世界です。その両者をつなぐものとして、私達の先祖がわかりやすく発明したものが花道だと思うので、そこを強調する意味でも有効に使えるのではないかと期待しています。
舞踊家が最終的に到達する境地というのは、踊らずとも、そこに存在することがすでに踊りだという表現だと思いますから、この公演が一人でも多くの方にその奥深い舞踊芸術の素晴らしさに触れて頂ける機会になるよう願い、観て下さる方への感謝を持って務めていきたいと思います」
(取材・文:橘 涼香/ヘアメイク:NoLi(AshGrey) 撮影:彩開フォト)